一番上の画像は僕所蔵の本です。「北京的夏」(ファンキー末吉・原案、松本剛・画/講談社)より引用
「北京的夏」はミスターマガジン(講談社)に1992年~1993年まで連載され、1993年に単行本全1巻が発売されました。
6月4日は、あの「天安門事件」が起きた日です。36年経った今ではその記憶はだいぶ風化され、若い人にとってはそんな事件があったことすら知りません。
当の中国でさえ事件はタブー視され、中国国内のネットでは検索が出来ないようです。そのため中国の若者の中では事件そのものを知らない人もいるそうです。
(あらすじ)
1990年、バブル景気真っただ中の日本。ロックバンドSO-LONGは時代の流れに乗り人気バンドになっていた。
しかしドラム担当のトオルは、人気が高まっていくのとは逆に商業化に沿うことによってロックの魂が失われていくのを感じていた。焦燥感にかられて生活が荒れ、曲作りが出来ず行き詰まっていた。
トオルはSO-LONGのメンバー主演映画の音楽担当になっていたが、当然、曲が出来上がることは無かった。
SO-LONGのメンバー主演映画の記者会見の日、会場の席でプロデューサーから驚きの発表があった。
トオルにはSO-LONGの音楽性向上のため、これから世界を旅してもらう、と。
突然、一人で海外に行くことになったトオル、行先は中国になった。
中国・北京に到着したトオル、目の前に映る世界には「ロック」の影も形も無かった。中国ではロックが検閲の対象になっていた。
そんな街角でトオルは「緑(リュイ)」という中国人女性と出会った。彼女は日本語を話し、ロックについても知っていた。
彼女は「黒豹(ヘイ・バオ)」という中国ロックバンドのヴォーカルだった。
「黒豹(ヘイ・バオ)」のライブを見たトオルは、その熱量に圧倒された。ロックを自由に演奏できない中国で、その熱量は商業化された日本のロックを凌駕するほどだった。
トオルのロック魂が震えた。
原作はロックバンド「爆風スランプ」のドラム担当、ファンキー末吉さん。「小説現代」で執筆された「天安門にロックが響く」が元になっています。
ウィキペディアによると、ファンキー末吉さんは1990年に中国のロック事情に興味を持ち、そこから中国ロックを題材にした小説を書いたそうです。
漫画「北京的夏」は1992年から1993年までの連載なので、当時の日本と中国の状況を現代からの視点で見ると、そのギャップが興味深かったりします。
トオルが海外に行くのに最初に選んだのは「北朝鮮」でした。これはパスポートの渡航先の但し書きに「北朝鮮を除く」とあったからです(1991年4月1日以降発行のパスポートから削除されているそうです)。
北朝鮮とは国交が無いので当然ではありますが、トオルはスケジュールの催促をするマネージャーに腹が立ち、ビザを取れと無理難題を吹っ掛けます。
その後マネージャーが調べ、中国経由なら北京の北朝鮮大使館で日本人でもビザを取れることが判明します。
トオルはひとまず中国に向かいます。
1990年4月26日、トオルは北京の天安門広場に着きます。あの「天安門事件」から約10ヶ月、広場は平安を取り戻したかのように見えました。
トオルは挨拶としてドラムスティックで周りを叩くストリートライブを始めます。
そのうち警備員が現れトオルは厳重注意を受けます。
しかし周りの人たちは誰も興味を示しません。
トオルは、ロックの匂いのしない街に疑問を持ちます。
トオルは「緑(リュイ)」という女性と出会います。彼女は日本語を話し、ロックについても知っています。
彼女は「黒豹(ヘイ・バオ)」という中国のロックバンドのヴォーカルでした。
彼女はトオルにバンドメンバーを紹介します。
中国ではロックは政治批判の対象となり検閲されています。またインターネットが普及する前の時代なので、海外からのロックの情報もほぼ入りません。
トオルは日本から来たプロのロックバンドのミュージシャンとして、黒豹のメンバーからロックについての質問攻めにあいます。彼らにとっては日本は豊かで自由の国であり、憧れの対象でもありました。
そのため緑(リュイ)は日本語と英語を勉強して通訳の仕事をしています。これはロックの情報収集のためでもありました。
ロックについて真剣に質問してくる彼らに対し、トオルは先生気分で満足気になっていました。
しかしトオルは黒豹のライブを観て打ちのめされます。その熱量は日本の商業ロックを遥かに凌駕していました。
恵まれない環境の中で本物の熱いロック魂を見せつける黒豹に対し、恵まれた環境の中でロックの先生ヅラをしていたトオルは自分を恥じました。
心の底から湧き上がる、ハングリーな渇望としての本物のロックの魂が中国にあったことに感動を覚えたのです。
トオルは心入れ替え、黒豹のメンバーたちと同じロック仲間として接するように努めました。そして中国のことや中国の人たちについて理解を深めようとします。
トオルは緑(リュイ)の案内で天安門広場を回ります。ここは1年前の6月4日、「天安門事件」が起きた場所でした。
1989年、天安門広場で学生たちによる民主化運動が行われました。自由を求める人たちの中に、緑(リュイ)は恋人の劉と共にいました。劉は「スタンド・バイ・ミー」を歌い非暴力による抵抗運動をしていました。
しかし6月4日、戒厳令が敷かれ、非暴力民主化運動は「動乱」みなされて人民解放軍による武力鎮圧が行われました。
その中で劉は命を落とします。
当時、中国での大規模な民主化運動として日本のニュースでも取り上げられていました。僕もテレビでその様子を追っていました。何か一つの時代が変わる、そんな予感がしていました。
そして6月4日に戒厳令が敷かれ、広場に集まった人民は暴徒とみなされて人民解放軍による鎮圧が行われました。
日本でも昔、学生運動に対して機動隊が出たことはありますが、中国では同じ同胞、しかも非暴力を唱える学生たちに銃口を向け、しかも戦車まで動員するのでホント容赦ないです。これをマジで出来る中国共産党ハンパ無いです。
トオルは自分の中のロック魂に目覚めます。何かをやらなければならない、そんな思いにかられたトオルが選んだ道は…
天安門広場でゲリラライヴを行うことでした。
そして6月4日、黒豹のゲリラライヴが天安門広場で始まりました…。
1989年~1991年、日本はバブル景気に浮かれていた時代、中国ではロックは反政府思想として検閲され、海外への渡航も許されず、海外からの情報も制限されていました。
それが2025年現在、中国は日本を抜いてGDP世界第2位、日本に観光に来た中国人客による爆買いなど、隔世の感があります。
それでも、粗削りなエネルギーに溢れたこの本に若いうちに触れておくのは大事だと思います。
今年も6月4日を迎え、時の流れの中で事件のことが段々薄れていってしまいますが、それでもこの本を心の楔として記憶に打ち込みたいと思っています。
僕のX(旧Twitter)のフォロワーでマレーシア在住の中国人の方がいらっしゃるのですが、この本は中国で手に入れるのは難しく、マレーシアで見つけて買えたそうです。できれば多くの中国の人々に読んでほしいです。
・Kindle(amazonリンク)
「北京的夏」の原作となったファンキー末吉さんの小説「天安門にロックが響く」は2018年にKindleで配信されています。
表紙は「北京的夏」の松本剛先生が描かれています。
・紙単行本()amazonリンク)
2025年6月現在、amazonでは5,606円のプレミアが付いていますね。
Kindle漫画を読むなら、読み放題がお得です!
200万冊以上の読み放題KindleUnlimitedが 初登録で30日間無料!
時々、2ヶ月、3ヶ月の無料or割安プランも実施中!
詳しくは、下の画像をクリックしてください
僕の本棚には、僕の趣味で保管しておいた漫画が、期せずして「お宝」になってしまったものが数多くあります。
「お宝」といってもプレミアが付いて値段が高騰しているものという意味ではありません。
存在そのものが希少となり、現在、紙媒体として入手困難なものを僕の中で「お宝」と定義しています。
「お宝」とまではいかないものの、一風変わったレア度の高いものは、「漫画紹介」のカテゴリに入れています。
このブログではそんな「お宝漫画」などを紹介していきます。
-
-
【お宝漫画】「まんがアマデウス」安永航一郎・著【おすすめ】
*一番上の画像は僕のスクラップからです。「まんがアマデウス」(安永航一郎・著/小学館)より引用 「県立地球防衛軍」の著者、安永航一郎先生による、映画「アマデウス」のパロディ怪作です。 (あらすじ) 養 ...
続きを見る
-
-
【漫画紹介】「ルサンチマン」花沢健吾・著【おすすめ】
*一番上の画像は僕所蔵の本です。「ルサンチマン」(花沢健吾・著/小学館)より引用 「ボーイズ・オン・ザ・ラン」「アイアムアヒーロー」の花沢健吾君の週刊連載デビュー作「ルサンチマン」です。 週刊ビッグコ ...
続きを見る