*一番上の画像は僕所蔵の本です。「弑逆契約者ファウスツ」(星野泰視・著/講談社)より引用。
「弑逆契約者ファウスツ」は週刊少年マガジンに2008年~2009年まで連載され、「哲也-雀聖と呼ばれた男」、現在では「日本を創った男 〜渋沢栄一 青き日々〜」を連載中の星野泰視先生の作品です。
(あらすじ)
2008年、数学界最高峰の栄誉である「フィールズ賞」、その候補者に挙がっている天才少年、田宮六登は持病である心臓病の治療のため、東京から長野県某所のある病院に転院することになった。
そこは院長が神父で看護婦が修道女の恰好をしている一風変わった病院だった。入院患者もほとんどが重病人の老人ばかりだった。
そんな中で田宮六登は同い年の少年の入院患者と出会った。彼は円堂博人、前回のフィールズ賞候補者だった。
実は入院患者の老人たちはノーベル賞候補者など各分野の最高頭脳であり、彼らと円堂博人は病院内の「聖書の会」に参加していた。
その目的は伝説の奇跡の書と呼ばれる「赤い本」の解読だった。本は未知の古代文字で書かれており、解読には高等な数学知識が必要だった。そして解読すれば「不死の体」を得られるといわれていた。
しかし入院患者たちは命がけで解読に挑んではいるものの、18年かかっても一文字も解読が進んでいなかった。
そんな時、円堂博人の容態が悪化した。彼の命の灯が消えようとしている。
「聖書の会」の存在に疑問は持つものの、田宮六登は円堂博人の命を救うために「赤い本」の解読に挑み始めた。
僕は熱心な少年マガジン読者というわけでは無かったのですが、この時期に少年マガジンの読切企画があり、僕も参加することになりました。原作というほどでもないのですが参考としてのネタ本を渡され、それを元にネームを描いていました。しかし編集会議で通らなかったので企画はそこで終わりになりました。
その縁があって週刊少年マガジンの贈呈本が送られてきて、数年間僕は毎週送られてくる週刊少年マガジンを無料で読み続けることが出来ました。「弑逆契約者ファウスツ」はその時期の掲載作品だったため、僕は毎週読むことができた訳です。
おかげで毎週、手に汗握る展開に心躍らせながら読み続けていました。
「フィールズ賞」候補者にも挙げられるほどの数学の天才少年・田宮六登(以後、六登)、彼は心臓病の持病を持っていました。
彼はその天才的頭脳を買われ、高度な治療を受けられるという病院に転院することになりました。
持病の心臓病が今まで治る見込みが無く、六登は厭世的な性格になっていました。
病院に入院している患者はほとんどが老人でした。
しかし同じ病室には六登と同い年の少年がいました。彼の名は円堂博人(以後、ヒロト)、彼は六登が「フィールズ賞」候補者であることを見抜きます。
ヒロトが自分のことを知っていることに六登は驚きます。その時、院内放送で「聖書の会」の集合がかかり、会員であるヒロトは集会に向かいます。
ヒロトは数学の面白さについて修道女に説きます。その高等な数学理論を説くことに六登は驚きます。
実はヒロトは前回の「フィールズ賞」候補者でした。
「数学の天才児である」というキャラクター紹介を、高等な数学理論を噛み砕いて面白く説明していることで表現しています。
「フィールズ賞」は主に「数学上の未解決問題」を証明した者に贈られます。同じ数学の天才少年、六登とヒロトは、次に何の問題を証明するのかを話し合っています。
ヒロトは六登に「ポアンカレ予想」を証明するのかと尋ねます。
六登はその質問に驚きます。「ポアンカレ予想」はすでに証明された問題だったからです。
ヒロトは長年の入院生活でそのことを知りませんでした。
ヒロトは自分が入院している間に「数学上の未解決問題」が次々と証明されていくことに落胆します。
しかし自分にはまだ解かなければいけない難問があると気を取り直します。六登がそれは何かと尋ねますが、ヒロトは、ライバルだから教えられないと答えます。しかし六登が「聖書の会」に入るのなら教えてもいいと誘います。
六登は「聖書の会」への誘いを断ります。心臓病で厭世的になっている六登は神を信じていないので「聖書の会」にも興味を持ちません。
突然、ヒロトは咳き込み吐血します。実はヒロトの容態が見かけ以上に悪いことに六登は焦ります。
ヒロトはそんな状態にもかかわらず、翌日の「聖書の会」に参加します。
不審に思った六登はヒロトの後を着けます。そして着いた先は病院の裏手にある教会でした。
教会の中では大勢の老人の入院患者がひしめき合い、重病である体に鞭打ちながら必死に研究を続けています。
その異様な光景に六登は「聖書の会」への疑念をさらに強めます。
そこに院長が現れ六登は見つかってしまいます。
院長室に通された六登は院長から「聖書の会」についての真実を聞かされます。
「聖書の会」の研究内容は「不死」についてのものでした。
「聖書の会」の重病患者は、ノーベル賞候補者など各分野の最高頭脳の者たちであり、総勢180名が在籍していました。
その知の巨人たちが集結して研究しているのが「不死」でした。集められた老人は自分が生き延びるために必死になって研究を続けます。
六登がこの病院に呼ばれ転院することになったのも、六登の数学理論の知識が見込まれて「不死」の研究に参加させるためでした。
「聖書の会」の時間が終わり教会から出て来たヒロトに六登は詰め寄ります。数学の専門家であるヒロトにとっては「不死」の研究は専門外のはず。なぜそこまでこだわるのか?。
実は「聖書の会」の研究は、ある「本」の解読であり、それには数学の知識が不可欠ということで、解読が即「不死」に繋がるということでした。
数学の未解決問題の証明をし続けたいためにヒロトは「不死」を望みます。そしてそれはヒロトだけでなく、重病の老人たち全ての望みでもありました。
そしてヒロトは倒れて集中治療室に運ばれます。「不死」を望みながらも、それがまだ叶わない内にヒロトの命の灯は消えようとしています。
このまま死にたくないヒロトは「本」の解読を六登に託します。解読されたときにヒロトが助かる可能性があるからです。
「本」を解読することでしかヒロトを救う道は無いと六登は決意します。
大勢の最高頭脳が結集されても長年解読できなかったものを、六登はヒロトの命の灯が消える前に解読しなければなりません。相当な無茶振りです。
「本」は未知の古代文字と模様で書かれており、18年かかっても一文字も解読できていない状態でした。六登は今までの研究資料を参考にして解読を進めます。
その中でヒロトの研究レポートを見て、六登は解読のヒントを見出します。
そして試行錯誤の末、本の解読に成功します。
本の解読後、ヒロトは一命を取り留めます。
病室内は歓喜に包まれます。18年かけた成果が叶った瞬間です。
「本」の解読により「不死」の体を得たヒロトですが、実はここからが更なる地獄の始まりでした。
この壮大な物語も読者の好みが分かれるためか、連載が打ち切られてしまいます。僕は好きで読み続けてきたのですが、単行本にして4巻分で終わってしまいました。とても残念です。
この漫画が連載された頃(2008年)の少年マガジンは「はじめの一歩」「スマッシュ!」「ダイヤのA」「ベイビーステップ」「あひるの空」などスポーツ系漫画が多く、スポーツ系以外の漫画でも「魔法先生ネギま!」「エア・ギア」など全体的に派手なアクションで魅せるタイプの連載が多かったです。そんな中で「弑逆契約者ファウスツ」は「歴史物」「オカルト」「数学」の要素が詰まった緻密な作りの漫画であり、「頭よりも体を使って見せる」連載物が多い中、「頭を多く使う漫画」は当時の少年マガジン読者にとっては受け付けにくい「理屈っぽい作品」に見えたのかもしれません。
また「弑逆契約者ファウスツ」は明確なヒロインが登場しません。物語の性質上仕方が無いのかもしれませんが、これは大きな痛手だったと思います。主なキャラクターは「数学の天才少年」2人と「重病人のジイさん博士たち」なので、絵面が華やかではありません。女性キャラクターも出てきますが、数が少なく、その中でも活躍を見せるのは僅かです。しかも舞台が「山奥の病院」の中なので、緊迫感は出ても絵的にどうしても薄暗く地味になります。
物語後半から、病院を出て街なかへと舞台は移ります。また田宮は学校にて潜入調査をするので、そこに女子高生が登場します。この辺りの展開は、僕は「テコ入れ」かもしれないと考えています。田宮たちの行動範囲が広がり、悪魔との戦いも街なかでの派手なアクションになり見せ場も増えました。ゲストキャラクターもいろいろ出せるようになり、物語が広がりをみせるようになりました。いわゆる「少年誌的な展開」です。
しかし僕個人としては物語前半の「濃密な謎解き」が好きだったので、それが薄まってしまったような気がしました。
当時の少年マガジン読者にとってはとっつきにくい漫画だったのかもしれませんが、僕にとっては久しぶりに「読み応えのある濃密な少年漫画」だったので、本当に次週が待ち遠しかったです。
ツイッターで検索をしてみると、この漫画を読んでいた人は少数派であり、少し読んだだけだけど、何故か心から離れないという人もいました。読者の心に何かを残す、それだけ「漫画力」の強い作品なのだと思います。僕も同じ漫画家として、傑作とまではいかなくても何か心に残る「漫画力」の強い作品が描けたら本望だと思います。
*余談ですが
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