*一番上の画像は僕所蔵の本です。大友克洋全集「Animation AKIRA Layouts and Key Frames 1 」(大友克洋・著/講談社)より引用。
「大友克洋全集」とは、漫画家・大友克洋先生のこれまでの仕事を全部収録する一大プロジェクトです。
これは紙の単行本だけで電子書籍にはなりません。
また「AKIRA」以外の本は、ほとんど絶版状態のようです。
*2022年7月20日、第4回配本は延期と発表され、11月30日配本になりました。公式サイトによりますと、第4回配本は「File-Ball」「Animation AKIRA Layouts and Key Frames 1 」の2冊の予定でしたが、「Animation AKIRA Layouts and Key Frames 1 」の内容が増え、単価が高くなったため(税込7700円)、「Animation AKIRA Layouts and Key Frames 1 」1冊のみの販売となりました。
「Animation AKIRA Layouts and Key Frames 1 」は映画「AKIRA」のレイアウト&動画集で、大友克洋先生の手により描かれたものが収録されています。公式サイトによりますと、予定外の増ページ、フルカラー印刷、セル画の大量掲載により、製作に時間がかかったということでした。
総ページ数650ページ、実際に出来上がった本は7700円(税込)と高価ではありますが、値段以上の内容の充実さで、発売を待たされた甲斐がありました。
それにしても定価7000円の本は消費税が付くと7700円になるのは驚きです。消費税で700円ですよ。消費税率10%なのだから当たり前ですが、この10%がいかにキツいか身に沁みます。
「大友克洋全集」はビニールカバーで色分けされています。ピンク色はアニメーション関係のようです。
すでに配本されている「Animation AKIRA Storyboards」の1と2に比べ、今回の「Animation AKIRA Layouts and Key Frames 1 」はページ数が多く本がブ厚くなっています。
「Animation AKIRA Storyboards」の1が488ページで「Animation AKIRA Layouts and Key Frames 1 」は650ページです。
また基本オールカラーであり複製セル画が入っているためが、値段も高くなっています。「Animation AKIRA Storyboards」の1が4400円で「Animation AKIRA Layouts and Key Frames 1 」は7700円です。
「Animation AKIRA Layouts and Key Frames」は3まで出るらしいです。つまり大友克洋先生は、監督でありながら650ページ分のレイアウト&動画を、3冊分の分量を描かれているということです。
「Animation AKIRA Layouts and Key Frames 1 」には「レイアウト」「原画」「修正原画」「セル画」が収録されています。
はじめに「本書の見方」が書かれており(写真では内容をボカしてあります)、パラパラめくって原画が動くのを楽しむのもよし、セルの重なり具合を楽しむのもよし、などの構成になっています。
「修正原画」には実際の仕事のように黄色い紙が使われており、折り込みのページも多数あったり、またその裏にも印刷がされていたりなど、装丁が凝っていて、製本作業がとても大変だと思われます。セル画も数多く差し込まれているので、尚更です。
この本もいずれ増刷されるかもしれませんが、製本の手間がとても大変そうです。「Animation AKIRA Storyboards 1」が4400円の値段にもかかわらず発売初日で完売したこともあり、大友克洋先生は多めに刷るように言っていたようですが、製本の大変さを考えると分かる気がします。
写真は、上の黄色い紙が「修正原画」で下が「レイアウト」です。
「修正原画」は他のアニメーターが描いた原画を、作画監督がキャラクターや動きを修正した物です。多くのアニメーション製作では主に作画監督の仕事ですが、「AKIRA」の場合は監督でもある大友克洋先生が修正を行っています。
「レイアウト」は構図やカメラワークを指定したものです。これを元に「背景」と「原画」を描いていきます。
大友克洋先生による「修正原画」です。修正用紙を繋げて描いてあるものは。このように折り込みで製本されています。このような折り込みページが何枚もあるので製本が大変そうです。
大友克洋先生のアニメ原画が凄いと思うのは、鉛筆線で線の迷いが無いことですね。頭の中に具体的なイメージがあるためか、選ばれた少ない線で思い切りよく描かれています。
漫画原稿は全てペンで描かれているものなので、大友克洋先生の鉛筆線を見られることはなかなかありません。アニメの仕事をされたおかげで鉛筆画が見られるので、こういう記録本は本当に貴重です。
僕が初めてみた大友克洋先生の鉛筆画は、アニメ映画「幻魔大戦」のムック本「キャラクターオブ幻魔大戦ーWarning!」でした。「幻魔大戦」は大友克洋先生が初めてアニメ製作に参加された作品で、先生はキャラクターデザインとレイアウトを数カットを担当されていました。ムック本に載っていた大友克洋先生の鉛筆画に僕は衝撃を受けました。リアルな画風なのにもかかわらず絵が固くありません。意外とサラッと描かれていて、アニメになって動いていても違和感がありませんでした。
「キャラクターオブ幻魔大戦ーWarning!」については後述します。
収録されている「セル画」です。
改めて思うことは、アニメ映画「AKIRA」は「セルアニメ」だったことです。CGではありません。CGは超能力を測定する機械が表示する「超能力パターン」のシーンがCGとして使われているのみで、ほとんどが「手描きのアニメ」だということです。
人物が動くので、バイクとは別セルになっています。
「セル画」を見ると何かドキドキしてきますね。昔はアニメの素材の代表格ですし、ファンにとっては宝物という存在でした。
これも「セル画」ですが、これは実際の物は多分、紙に描かれたビルをセルに貼り付けたものだと思われます。ビルごとに別セルになっていて遠近ごとに引っ張りの速度を調整して撮影されていたのだと思われます。
大友克洋全集は、ファンの中では「漫画作品の再録に集中して、アニメまで取り上げなくてもいいのでは?」という声もあるようです。本が高価になるというネックや、またアニメ関係本が出ることで漫画作品の出版が先延ばしになるという懸念もあるようです。
確かに大友克洋全集のアニメ関係本は漫画作品再録本に比べて高価です。しかし大友克洋先生の鉛筆画が見られるのはアニメ関係本ぐらいですし、しかも元のアニメ関係本はなかなか再販もされにくく、古本として手に入れることも難しいので、全集として出される機会があるうちに手に入れておいたほうがいいと思います。
僕が大友克洋先生のことを知ったのは、まだ「AKIRA」を描かれる以前であり、初期の実写映画っぽい漫画を描かれている頃だったので、まさか先生がアニメ方面に行くとは思ってもいませんでした。
先生が描かれている漫画は、それまでの漫画の記号的表現を排し、実写映画的表現で描かれていましたし、短編「任侠シネマクラブ」の中では、高校の映画研究部の文化祭での上映作品製作についての会合で、部員の一人が「宇宙戦艦ヤマトみたいなアニメを作ってみたい」と提案するシーンがあったのですが、
僕はこれを、アニメやオタクをギャグとして捉えたものだと思っていました。悪く言えば「小馬鹿にして笑いを誘うもの」としての表現です。当時の大友克洋先生の漫画表現の傾向とは真逆のものだったので、よりそう思っていました。
その後にSF短編や「AKIRA」を描かれても、実写映画的表現の延長だと思っていたのですが、まさか「AKIRA」を作者自身の手でアニメ化するとは僕は全く想像していませんでした。
「AKIRA」アニメ化の前には、ワンクッションとしてアニメ映画「幻魔大戦」のキャラクターデザインの仕事がありました。多分この仕事で大友克洋先生がアニメの現場を体感したことで、アニメの道に進むきっかけになったのかもしれません。
そういえば宇宙戦艦ヤマトネタは「気分はもう戦争」の中でも出ていました。大友克洋先生、結構ヤマト好きなのかもw。
写真は「キャラクターオブ幻魔大戦ーWarning!」(角川書店)です。映画「幻魔大戦」の大友克洋先生の鉛筆画が多く載っています。
大友克洋先生の絵がアニメで動くというのは、当時としては画期的なものでした。
「幻魔大戦」は「AKIRA」と同じく超能力モノでもあったので、大友克洋先生の絵がアニメで動くことの大きな実験作にもなっていたと思われます。
*「キャラクターオブ幻魔大戦ーWarning!」は1983年に出版された本であり、現在amazonでは7900円~10000円の値がついています。定価は980円なのですが、40年近く前のものであり希少価値として高値になっているようです。
今後の「大友克洋全集」ですが、予定通りに配本されるか気になるところがあります。
大友克洋先生の昔の漫画作品には、有名なレコードジャケットや有名写真家の写真をそのまんま模写して扉絵に使っているものがあります。
特に「気分はもう戦争」の単行本の中扉は、カメラマン、ロバート・キャパの写真「崩れ落ちる兵士」がそのまんまの模写で描かれています(下の画像は念のためボカシを入れてあります)。
ロバート・キャパは2人組の写真家であり、アンドレ・フリードマンとパートナーであるゲルダ・タローが共同制作をしていました。
「気分はもう戦争」の単行本の初版は1982年1月24日です。アンドレ・フリードマンは1954年没、ゲルダ・タローは1937年没であり、アンドレ・フリードマンが亡くなってからまだ28年です。当然、著作権は切れていません。
2022年の段階でもアンドレ・フリードマンが亡くなってから68年です。著作権の保護期間は原則的には現在では著作者の死後70年までです。あと2年経たないとパブリック・ドメインにはなりません。
1970年代後半~1980年代の漫画業界はまだ著作権の考えが薄く、人のデザインを盗むという意識は無く、イラストとしてカッコイイデザインのものを自分の漫画に取り入れたいという風潮がありました。この時代は大友克洋先生だけでなく数多くの漫画家がこぞって取り入れていました。現在ではアウトですが、この時期があったおかげで漫画のデザインセンスが飛躍的に向上しました。
さすがに現代では著作権の問題があるため、模写を使った原稿の再版は難しいでしょう。これをクリアするには、
・著作者に連絡して許諾を取る。
・元ネタと被らない構図に描き直す、または全然違うものに描き直す。
・著作権が切れるのを待つ
という方法がありますが、「大友克洋全集」が今までの大友克洋先生の仕事の全記録集だと考えると、過去作品を修正することは難しいと考えられます。
一番誠実なのは、各著作関係者から許諾を取るという方法だと思われます。
実際に許諾を申請しているかもしれませんが、許諾が下りるまでに時間がかかる場合があります。ものによっては全集の配本スケジュール通りにいかないかもしれません。
できればカットされることなく、発表時のままの収録を望みます。
*2023年2月5日、公式サイトによりますと、第5回配本は4月3日配本予定になりました。第5回配本は「Animation AKIRA Layouts and Key Frames 2 」(税込7700円)1冊のみの販売です。しばらくは漫画の再集録本は出ないかもしれません。
過去の大友克洋全集の記事はこちらです↓
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目次
【漫画紹介】「大友克洋全集」(その1)大友克洋・著【おすすめ】
*一番上の画像は僕所蔵の本です。「大友克洋全集」(大友克洋・著/講談社)より引用。 「大友克洋全集」とは、漫画家・大友克洋先生の仕事を全部収録する一大プロジェクトです。 これは紙の単行本だけで電子書籍 ...
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・「大友克洋全集」(amazonリンク)
「Animation AKIRA Storyboards 1」
「Animation AKIRA Storyboards 2」
「Animation AKIRA Layouts & Key Frames 1 」
・旧単行本(amazonリンク)
・ムック本(amazonリンク)
僕の本棚には、僕の趣味で保管しておいた漫画が、期せずして「お宝」になってしまったものが数多くあります。
「お宝」といってもプレミアが付いて値段が高騰しているものという意味ではありません。
存在そのものが希少となり、現在、紙媒体として入手困難なものを僕の中で「お宝」と定義しています。
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