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【お宝漫画】「深く美しきアジア」鄭 問・著【おすすめ】

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*一番上の画像は僕所蔵の本です。「深く美しきアジア」(鄭問・著/講談社)より引用。

鄭問(チェン ウェン)先生は台湾の漫画家であり、日本では代表作「東周英雄伝」が有名です。
その鄭問先生が1990年代にコミックモーニングで連載されていた「深く美しきアジア」は日本漫画ではなかなか味わうことができない怪作(?)です。

(あらすじ)

そこに存在するだけで周囲に厄災をもたらす男、疫病神の「百兵衛」。百兵衛自身はその力を制御できず、心優しき彼は周囲に迷惑をかけないようにと自戒してひっそりと暮らしていた。
国は百兵衛の力を恐れ、「格殺令」という殺人許可命令を出した。
百兵衛が触れた物には厄災の力が宿り、それに触れた者は必ず不慮の事故に遭い、最悪は絶命する。百兵衛を追う警察局長は彼に肩をちょっと叩かれただけで一番下っ端であるヒラの巡査に降格された。
百兵衛と敵対する「理想王」、彼は秩序を重んじ、世界の言語、文化、宗教、思想、経済を統一するという理想を掲げていた。百兵衛の厄災の力は世界に混乱を生み、理想王の理想である秩序を阻むものとして、理想王は百兵衛と対決する。

日本では「東周英雄伝」の印象が強い鄭問先生ですが、台湾では戦国武将モノだけでなくSFも描かれています。

筆のタッチを生かした独特の筆致、そして高い画力が魅力です。そしてこの「深く美しいアジア」では、日本漫画ではあまり見かけなくなった「荒唐無稽の面白さ」に溢れています。
日本の漫画とは表現の文脈が違うことから好みは分かれると思いますが、僕は漫画が本来持つ「荒唐無稽」の原始的なパワーを感じさせてくれるこの作品が大好きです。

とある収賄官僚の別荘、同じ日に飛行機、車、ボートが数台突っ込むという事件があり。警察はこれを「疫病神・百兵衛による厄災」として調査を開始します。

大量のアリ、ゴキブリ、ネズミが下水道から逃げ出したため、警察はそこに百兵衛がいることを確信します。
その推察通り、百兵衛は下水道の中に身を潜めていました。
百兵衛は裸に新聞紙を纏っただけのイケメンヒーローなのが良い意味でどうかしています(笑)。
警察官の一人は、百兵衛の持ち物である新聞紙に歌手のマドンナの記事を見つけて拾い上げてしまいます。百兵衛は警察官に持ち物に触れるなと警告をしますが、警察官は聞く耳を持たずに新聞記事を軽く握り潰そうとします。その瞬間、下水道のパイプが外れて警察官の頭に当たりました。

百兵衛は再度警告するものの、腹を立てた警察官は新聞記事をグシャグシャに握り潰します。その瞬間、上のマンホールの穴から細い鉄骨の束が降り注ぎ、警察官を串刺しにします。これは地上の工事現場での鉄骨運搬中の事故でした。
これ以上、自分に関わる者が死ぬことを恐れた百兵衛は下水道の中を逃げ回ります。

百兵衛は下水道の中を逃走中、はずみで、護符を貼られ幽閉されていた女キョンシー・蝶子を目覚めさせてしまいました。
蝶子は、護符を剥がしたお礼に百兵衛の望みを一つだけ叶えると告げます。
こうして百兵衛の行くところ、数々の超人(?)が次々と登場していきます。鄭問先生のキャラクターの立て方がハンパ無いです。

とある雑多な夜店街の中、一台のロールスロイスのリムジンが入り込みます。しかしこのリムジンの規模がハンパない!

異様に長いロールスロイスのリムジン、これでは絶対に右左折が出来ません(笑)。
この荒唐無稽なものを超絶画力で力ずくでリアリティを出すことが漫画の醍醐味になっています。
トンデモない車に乗っている者はトンデモない奴だと読者にアピールしているので、漫画的演出としてとても正しいです。最近の日本漫画ではこういったブッ飛んだ演出はなかなか見られないのでとても新鮮な感じがします。
車に乗っていたのは「理想王」と名乗る男です。
理想王はとある店で食事をします。座った場所は、占い師が大凶大災の場所として地面と天井に穴をあけて人が座りにくいようにしてありました。しかし理想王は気にも留めず、わざわざその場所を選んで座ります。
注文したのは「白米50グラムを一杯」のみ。1グラムの狂いも許しませんでした。

料理を注文しないことに店主は腹を立てますが、理想王は一向に気にしません。
そして理想王が食事を始めると、占い師が空けた地面の穴から大量のネズミやゴキブリが出てきました。
これは地面の下に百兵衛が来ている兆候です。

百兵衛による厄災が連鎖的に大きくなり、夜店街は炎に包まれます。しかし理想王は食事の姿勢を崩しません。炎の熱で茶碗が変形してもです。
理想王は、いったん始めたことは中断しないことをモットーにしています。
理想王は部下の魔法師に夜店街の住人の虐殺を命令します。魔法師は幽鬼を操り、住人たちを襲います。

そんな中、店主がクーラースタンドの中に隠れていたのが見つかりました。
店主は飯櫃を抱えて隠れていました。飯櫃は店主にとって30数年一緒にいた宝であり、燃えてしまうには忍びないということでした。
理想王は店主を殺さず、見逃しました。
「こんな時代に理想を捨てない馬鹿者は少なくなったからな」
乱雑な民衆を嫌う理想王ですが、理想を持つ者に対しては寛容なところもあるようです。

理想王は、秩序を重んじ、世界の言語、文化、宗教、思想、経済を統一するという理想を掲げています。孔子の理想である「徳を持って世を救う」ことを達成するために「理想国」の実現を目指します。
正義感の強い百兵衛は理想王と対峙します。理想国の実現のために乱雑な屋台街と民衆を排除しようとする理想王を、百兵衛は許すことができません。

百兵衛は身にまとっていた新聞紙を切り抜き、紙飛行機にして飛ばし、理想王のリムジンに当てます。

沿道の木々がリムジンに向かって倒れ込み、リムジンはコントロール不能になり大破します。紙飛行機の先端がわずかに当たっただけなのに、恐るべき百兵衛の厄災の力です。
百兵衛の厄災の力は理想王にとって想像以上の脅威となります。これが今後の二人の戦いの序章になります。

「深く美しきアジア」には様々なブッ飛んだ超人(?)が登場します。
この回に登場する「完美王」もなかなかブッ飛んでいて良い味を出しています。

理想王のロールスロイスのリムジンの目の前に、ランボルギーニ・カウンタックのリムジンが現れます。
一方通行を逆走していたランボルギーニ・カウンタックのリムジンは、理想王のリムジンと衝突します。

理想王の目の前に現れたのは、理想王によく似た「完美王」と名乗る男です。
車から降りる完美王の足に触れた小鳥は急速に成長し、孔雀となって華やかな羽を広げ、完美王の背後を彩ります。百兵衛とは真逆の力です。
理想王と完美王は、生年月日や体格、血液型が全く同じであり、その思想も、世界に秩序をもたらし完全な美しさを追求するという似たようなものを持っています。

理想王は民衆に、洗脳機能を持った「理想時計」を配布し、民衆を規律を持った「模範的市民」に改造しました。理想国実現のための第一歩として「理想都市」を築き上げました。
しかし「理想都市」を見た完美王は「乱れている」と失望しました。
完美王は「完全虫」を用いて民衆の心の中の醜悪さを排除し、清く、正しく、美しく変貌させます。
理想王は完美王に手出しをせず、様子をうかがっています。完美王にどう対応するのが理想的なのかを模索します。
完美王の挑発に、理想王の部下である機械元帥が怒り、2人の部下同士の対決が始まります。しかし決着がつかず、理想王は部下を引き上げさせます。

理想王は完美王と決着をつけるために、完美王の理想を問います。
その理想とは、人間の搾取の醜さを排し、人間の内面と外面を同時に美化し、完全に美しい理想の新世界をうち建てるというものです。
それは理想王の理想とも合致するものであり、完美王が理想王よりも優れていて、理想の実現がより堅実なものになるのなら、理想王は自分の存在はどうなってもよく、さらに自分の3人の部下を完美王に協力させてもよいと提案します。
理想王にとっては「理想の実現」こそが最優先事項であるため、自分以外の人間がそれに適役である場合は、身を引くことも辞さない覚悟を持っています。

しかし完美王は西洋至上主義であり東洋蔑視の視点を持っているため、完美王にとって重要なのは「権力」であり、完全な美しさは己の欲望を満たすためのものでした。
孔子の崇高な教えを理想とする理想王は反発心を覚えます。

権力に固執する完美王の「汚れた欲望」を、理想王は嫌悪します。似た要素が多い二人ですが、ここで相入れない部分が露呈します。
理想王は怒りを抑えるため、後ろ手で昔からの習慣であるあやとりをします。

理想王のあやとりは湧き上がる怒りをクールダウンさせるものであり、出来上がった物のクオリティで怒りの大きさが分かります。

ツイッターのタイムラインでこの画像を見かけたことがある人も多くいると思います。
理想王の怒りが大きいという表現とはいえ、これは器用過ぎます(笑)。

完美王も負けじとあやとりで対抗しようとしますが、手近にヒモがありません。
完美王は部下の機械皇后の配線を抜き取り、あやとりのヒモとして使います。
機械皇后は自身をコントロール出来なくなります。

完美王は後ろ手であやとりをすることに苦心します。
その様子を見て理想王は確信し高らかに笑います。つまらないことに拘る者は自分の相手ではないと。
理想王はここで部下に攻撃命令を出します。完美王の部下は次々にやられていきますが、完美王はあやとりを完成させることに拘り、部下に反撃命令を出しません。
そうやって出来上がったあやとりは、理想王よりも複雑な形になりました。

しかし完美王は部下の機械皇后から反撃されます。機械皇后の腕は完美王の体を貫き心臓まで達しています。
理想王への対抗心とはいえ、たった一本のヒモが必要なために部下を犠牲にすることへの怒りです。

完美王は十徳ナイフで機械皇后の動きを止めようとしますが、十徳ナイフでは電気を通すために機械皇后の電源を切ることが出来ません。
理想王はせめてもの情けとして完美王に東洋の箸を渡します。機械皇后の電源を切るには不電導体の物を使うしかありません。
しかし完美王は西洋至上主義のため、後進的な東洋の箸を使うことを拒否します。

しかしこのままでは完美王は確実に死にます。やむなく完美王は東洋の箸を使い機械皇后の電源を切ろうとします。
瀕死の重傷である完美王は箸を上手く使えずに落してしまいます。箸を拾おうとして体を屈めると、機械皇后の腕はさらに完美王の体に食い込んでいきます。
幼い時に箸を使う生活を捨てた完美王は、その最後の時に箸に見捨てられてしまうという皮肉な目に遭ってしまいます。

完美王は最後の力を振り絞り、美しい姿勢をとって絶命します。
しかし理想王は「美しいが無用なものだ」と容赦なく吐き捨てます。

荒唐無稽な対決ではありますが、似た者同士の最強キャクターの対決は物語が盛り上がります。そこをどう面白く見せるかに漫画家の手腕が問われます。
日本の常識に縛られない外国人による漫画は発想がユニークなので、こうした作品に触れる機会があることは日本漫画にとってもプラスになるはずです。

1990年代の講談社の青年誌、モーニングやアフタヌーン、オープン増刊などでは、外国人漫画家の作品が数多く掲載されていました。インターネットが世間的に普及する以前のことなので、海外の漫画事情をなかなか知ることができなかったため、外国人漫画家の作品はとても新鮮でした。日本漫画には見られない独特の文脈や表現方法などがあり、漫画の表現方法の豊かさを感じました。

残念ながら、鄭問先生は2017年3月26日に心筋梗塞により58歳の若さでお亡くなりになりました。ご冥福をお祈り申し上げます。
もう鄭問先生の新作が読めないと思うと本当に残念です。

「深く美しいアジア」は単行本が5巻まで出ています。
紙単行本は当時定価は1000円でしたが、Kindleでは660円で購入できるようです。
紙単行本も定価近く~安値で買えますが、第5巻だけなぜか9898円の高値が付いています(2022年12月現在)。

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僕の本棚には、僕の趣味で保管しておいた漫画が、期せずして「お宝」になってしまったものが数多くあります。
「お宝」といってもプレミアが付いて値段が高騰しているものという意味ではありません。
存在そのものが希少となり、現在、紙媒体として入手困難なものを僕の中で「お宝」と定義しています。
「お宝」とまではいかないものの、一風変わったレア度の高いものは、「漫画紹介」のカテゴリに入れています。

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